新しい戸籍をつくったときに引き継がれるもの
旧戸籍 |
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新戸籍 |
本籍地 |
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転籍時以外は引き継ぐ |
離婚に関する事項 |
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引き継がれない |
出生や認知に関する事項 |
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すべて引き継ぐ |
いまどき離婚経験者は珍しくないが、なかには、その事実を自分の人生から消し去りたいと考えている人もいるだろう。とくに再婚を考えている場合、離婚歴はマイナス材料になりかねない。
しかしなかったおこにしたくても、戸籍には過去の婚姻関係が記載されている。戸籍から離婚歴を消して、人生を一からやり直すことはできないのか。
まず離婚の事実が戸籍にどのように記載されるのかを見ていこう。男女が結婚して婚姻届を出すと、一方が筆頭者、もう一方が配偶者になって夫婦の戸籍がつくられる。離婚すると配偶者は除籍され、名前の上に大きな×印がつけられる。名前自体を消すわけではないので、筆頭者の戸籍にはどこの誰といつ結婚したかという記録が残ることになる。のちに再婚して離婚した場合も同じだ。離婚経験を俗にバツイチ、バツニと数えるのも、この×印に由来している。
除籍された配偶者は、原則的に結婚前の親の戸籍に戻ることになる。といっても結婚前の状態に戻るわけではない。結婚して親の戸籍から抜けたとき、子である自分の名前には×がつけられる。その記録は消えずに末尾に新たに名前が追加されるため、離婚して戻ってきたことが一目でわかってしまう。
配偶者は、離婚時に自分が筆頭者になって新戸籍を編制することも可能だ。この場合、戸籍に×印がつくような見た目の変化はない。これなら離婚した事実を隠せそうだが、戸籍に詳しい国部徹弁護士は次のように指摘する。
「身分関係に変化がなければ、普通は親の戸籍に入ったままです。にもかかわらず一人で新戸籍を複製するのはあまりないことで、結局は『離婚など何か事情があったのでは』と疑われてしまう」
これでは離婚歴が消えたと言えないし、そもそも筆頭者はこの手段を使えない。やはり離婚歴は一生背負っていかなければいけないのか。
じつは違和感なく戸籍謄本から離婚の事実を消す方法がある。それが転籍だ。
「本籍地を移すと、除籍された者に関する事項は転籍地の戸籍に引き継がれません(戸籍法施工規則第37条)。つまり自分の戸籍内にある離婚した相手についての記載や、親の戸籍内にある結婚前の自分についての記載が丸ごと消せるのです」(国部弁護士)
この他、分籍・入籍したり氏を変更した場合、コンピューター化によって戸籍が改製された場合も離婚を示す記載は引き継がれない。ただ、転籍以外の手段は自分の意思だけで実現できなかったり、手続きのハードルが高いものが多い。一方、転籍は非常に簡単で、日本全国どこでも自由に転籍先を選べるし、手続きも現在の本籍地か転籍先のどちらかの役所に届けを出すだけでいい。誰でも容易にできることを考えると、転籍がもっとも現実的な手段だろう。
ただし、離婚歴を戸籍謄本から消すことはできても、原戸籍(改製される前の戸籍)や除籍謄本(戸籍内の全員が除籍されたり転籍されて、戸籍簿から除籍簿に移された謄本)から完全に消すことはできない点に注意だ。
「遺産相続時には戸籍をさかのぼって親族・血縁関係を明らかにする必要があります。そのため役所は、原戸籍や除籍簿を保存して過去の身分関係を確かめられるようにしています。近年はプライバシー保護の観点から取得が制限されるようになりましたが、正当な理由があれば本院や法的関係者でなくても取得は可能。その意味では離婚を完璧に隠すことは不可能です」(同)
いつかの何かの拍子でバレるかも、と不安の日々を過ごすなら、カミングアウトしたほうが精神的には楽かもしれない″離婚歴ロンダリング″は、あくまでも最後の手段として位置づけておいたほうがいいだろう。
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