残業代がもらえない管理監督者とは?
責任と権限=経営方針の決定に参画し、または労務管理上の指揮権限がある ・人事、営業、経営等に関する重要な会議に出席し、事実決定に関与する権限がある ・アルバイトや社員の採用、解雇について責任と権限がある ・職務内容に部下の人事考課を含み、実質的に関与している
勤務様態=勤務時間について厳格な規制を受けず、自由裁量がある ・遅刻、早退等によって減給の制裁や人事考課でも負の評価を受けていない ・実態として、始業から就業時間まで勤務を事実上義務づけられていない
賃金などの待遇=賃金の支給など、一般労働者に比べて待遇が優遇されている ・時間単価換算した場合、アルバイト・パート等の賃金額を上回っている ・役職手当等の優遇処置が十分である ・年間の賃金総額が一般労働者と比べて上回っている
管理職は経営者側に近い立場なので、残業代をもらいないのではないか。そう思い込んで、サービス残業をつづけている管理職は多いかもしれない。 労働基準法は、労働者の労働時間や休日に関して規定を設けている。ただ、管理監督者はそうした規定の適用が除外されている(労働基準法四十一条二号)。つまり管理監督者には法廷労働時間の枠がなく、何時間働いても時間外労働にならない。 ただし、俗にいう「管理職」と労働基準法上の「管理監督者」は必ずしも一致しない。肩書は管理職でも、実質的に管理監督者でないと判断されて、残業代が発生するケースもある。よく知られているのは″名ばかり管理職″を世に知らしめた日本マクドナルド事件。東京地裁は店長を管理監督者と認めず、約755万円の支払いを会社側に命じた。 いったいどこからが管理監督者か。労働法に詳しい向井蘭弁護士は、「一般企業の課長職ならほぼ残業代をもらえる」と指摘する。 「裁判で問題になる一つは仕事の内容です。部下に実務を任せることができず、自分で実務をせざるをえないプレイングマネージャーであれば、管理監督者にあたらないと判断されます。最近の課長は自分で表計算ソフトを使って資料をつくったりしますからね。残業代請求の労働審判を申し立てれば、かなりの確率で勝てます」 ところが現実は名ばかり管理職の自覚があっても、会社に残業代を請求しない人のほうが多い。訴えれば勝てる見込みがあるのに、なぜ審判を主張しないのか。そこには昨今の労働市場の厳しさが見え隠れする。 「残業代を請求してトラブルを起こせば再就職に響くと考えて躊躇するのです。実際、未払い残業代を請求するのは、他業界への転職を考えている人がほとんど。私の知るかぎり、在職しながら請求するのは2パターンしかない。会社に何らかの恨みを持っているか、外資系などで退職金上乗せの交渉材料として訴訟をちらつかせるかのどちらかです」 ″みなし残業″にも注意が飛鳥だ。みなし残業は残業代を時間に応じて支給するのではなく、一括して一定額を支給する仕組みで、営業手当などの名目で支給する形が一般的。みなし残業は残業がなくても一定額が支給され、逆に決められた時間を請求できる。その点では労働者に有利だが、「営業手当を出しているのだから、それ以上の残業代は不要」と誤解され、サービス残業の温床になっているという指摘もある。 みなしの考え方は、いま岐路に立たされている。鍵を握るのは係争中の阪急トラベルサポート事件だ。旅行の添乗は事業場外の業務が中心で労働時間の管理が難しく、残業を含めて一定額を支払う事業外みなし労働制が採用されている。それを不服としている添乗員6人が残業代の支払いを求めて提訴。2012年3の控訴審で東京高裁は、労働時間の算定は可能として会社側に残業代の支払いを命じた。 「これは第二のマクドナルドになりうる事件。最高裁で事業外みなし労働制の適用が否定されたら、営業職にみなし労働制を採用して残業代を抑えていたほとんどの会社は、実時間を計算して残業代を支払う必要に迫られます。そうなると残業代が増える労働者がいる一方で、残業代の支払いでたちゆかなくなる中小企業も出てくる。最高裁の判決が鍵を握ります」
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